島尾敏雄

私はぐらぐらと赤土の崖からころげ落ちる頼りなさに襲われて来る。問題はそのような所にはないのだが、私はもう十箇月の間固着した同じような質問に答弁することを強いられ、それがもつれて行き、私の過去は白々とあばかれ、収拾がつかなくなることを繰返している。ああはじまって行く、はじまって行く。そう思うと頭はくらみ、妻の顔にも憑きものだけが跳梁し、私ののどもとには身勝手なむごい言葉が次々とつき上って来る。そしてそれをとどめることができずに口に出してしまう。